5 (秘儀の広間)においても,著名なディオニュソス秘儀図の大フリーズの上に,観者の目の位置よりはよほど高い位置になるが,壁面中間部と上部との間には,両者に挟まれた狭い画面に,渦巻く蔓性の植物が水平にのびて,ところどころにクピドの姿を挿入させながら,植物の枝で飾った細長いフリーズが描き表わされている。ディオニュソス秘儀図が,この部屋の室内装飾における中心的な装飾要素としての重要な地位をもつに至っているので,植物文装飾のフリーズは上方に押しやられてあまり目立たない存在となっているが,中間部の壁面と上部のそれとを区画しており,その上には細かい化粧板の並びが再現されていることから,この広間のフリーズも,明らかにデロス島やポンペイ第一様式の例においてみられたものが踏襲されたものということかできるであろう。第三は,紐状に編んだ枝などを連ねられた花綱や葉綱が,ブクラニオンや鋲などによって壁面に取りつけられて,そこから緩状に垂下して,あたかもゆるやかなカーヴの形を連ねるかのように壁面上を連続して,部屋の内部空間を取り巻いているかのように,その部屋の三方ないしは四方の壁面に描かれるものである。これはポンペイ第二様式の壁面装飾において盛んに描かれた諸例を意味するものであるが,たとえばボスコレアーレのファンニウス・シニストルのヴィラのエクセドラLの作例のように,墜面中間部が大きく蛇行するこのモティーフによって堂々と飾られることにより,花綱装飾がその部屋の装飾モティーフの中で最も重要な地位を占めるに至っており,主要モティーフとしての地位を獲得しているともいえるのであるが,これは第三様式になるとともに,その形態が次第に小型化して,壁面中間部におけるその部屋の中心的モティーフの重要性を,失ったり低下させたりするようになって行く。したがって,室内空間にこの種のモティーフが施される際の位置によって以上のような3つの類型を設定することで,ギリシャ古典期後期からローマ共和政期,および帝政期初期に至るまでの種々の作例を整理し,それらを大づかみにとらえながら技法や材質のジャンル別を超えた相互関係の比較・考察を行なうための,基礎的な枠組みも構築することができるようになると思われる。2.花綱装飾の種類とその構成要素舗床モザイクや壁面装飾のような建築装飾の部分に植物文が混入して装飾モティーフとなったものは,以上に述べてきた枠組みの中では,ギリシャ古典期後期に属す舗-319-
元のページ ../index.html#327