3.花綱モティーフが表わされた場所の性質や用途との関連見されており,関連が考えられる。舗床モザイクについても,壁画などを含む壁面装飾にあっても,花綱モティーフを利用した細長い水平フリーズや,弧を連ねて壁面の中間部を飾る主要モティーフとしての花綱などが,特定の種類の建築空間のみにひんばんに描かれているのであれば,その空間の用途や性質との関係から,花綱モティーフに込められた意味についても,考察の範囲に加えることができるようになるかも知れない。ところでこの点に関しては,これまでにもときおり指摘されることがあったのは,花綱モティーフと饗宴の関係である。それはひとつには,住宅建築の内部に描かれる種々の花綱モティーフの中で,常春藤の葉や葡萄の蔓を描いたものに関してはディオニュソス神との関連が想起され,穀物の穂や種々の果実のついた枝を表わした花綱(葉綱)に関しては,デメテル神やケレス神とのつながりが連想されるからである。それらがそれぞれ酒神や豊穣神のアトリビュートであるのならば,それらの花綱モティーフと,署宴とのつながりが考えられるとするのである。そしてもうひとつには,それらがしばしば描かれたのが,床と壁面との違いにかかわらず,ギリシャの場合はオエクスや,ローマの場合ではトリクリニウムなどのような,おもに来客を容応して酒宴を催すのに利用されていたといわれる部屋に多いことも,論拠のひとつとして取り上げることができよう。たとえば,そのような場合の具体例としては,古くはエレトリアやペラの例(ただし前者では酒神や農業神との結びつきを強く示す要素はまだ認め難い)があるが,常春藤の蔓に演劇用のマスクを伴ったデロス島の「マスクの家」の広間Gも,饗宴のための広間であると考えられるし,植物文を水平に描いた壁画装飾の中間部と上部を隔てる細長いフリーズ帯の例では,ポンペイの「ファウノの家」のオエクス44と,サッルスティウスの家のオエクス22などは,いずれもギリシャ図の饗宴の間にそのような植物文があてがわれている。ポンペイ第二様式になると,花綱装飾を描いた弧を繰り返す形式の装飾は,もっぱらオエクスやトリクリニウムに多く(ヴィラ・ミステリのオエクス6や,銀婚式の家の四柱式オエクス4などが想起される),クビクルム(寝室)に描かれたものは,第二様式の末期に至るまでは現存例でみた限りでは皆無である。したがって,以上の例を考慮すると,葬祭美術や純粋な宗教美術の脈絡の中で用い-322-
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