られた花綱装飾の意味とは異なる,住宅建築などにみられる脈絡の中に適合した形でこのモティーフが使用されている様態を観察することができるのである。部屋の用途との関係についてみると,このほかにもうひとっ,中庭や,それをめぐる回廊との関連も注目されるところである。デロス島の「イルカの家」の中庭にあるモザイクや,喜劇俳優の家の中庭Iや廊下ADの壁面にある植物文フリーズ,ポンペイの「クリプトポルティコの家」の地下柱廊や,ボスコレアーレのヴィラの柱廊の壁画など,花綱が描かれた場所としては,饗宴の間のほかに,玄関や廊下なども含む,ギリシアでは庭の中央に祭壇が据えられたことからうかがわれるように,祭社の場としての意味をもつことが考えられるところであるが,その他にも,中庭や柱廊などの,移動の空間も重要である。これにはひとつには,来客の通路ということから,饗応との関係も想起される。いずれにしてもオエクスなどとは異なる用途の空間であるので,また別個に検討を加える必要があるであろう。今回の研究で明らかにし得た点を述べてきたが,詳細は別に刊行予定の論文で詳しく論ずるつもりである。-323-
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