⑪ 雪舟画系の基礎研究研究者:山口県立美術館研究員福島恒徳はじめに雪舟等楊の系譜に連なる画人たちを総称して「雪舟流」あるいは「雪舟派」と呼ぶ。ひろくは近世の雲谷派や長谷川派などを含む意味で使われる言葉だが,ここでは狭い意味での雪舟直弟子筋の画人たちを指す。雪舟生前から,永正3年(1506)とされる没年を経て,永禄2年(1593)の雲谷等顔による雲谷軒再興までに至る,約1世紀のあいだの雪舟の後継者たちのことである。現在の雪舟流研究は,一部の画人についての数編の論孜を除けば,個々の伝称作品を紹介する段階をとおく出ていない。画人一人ひとりについての基礎研究がいまだ十分でない現在,画人集団全体のありようを把握するのは困難であろう。その原因は基本資料すなわち基準作品とドキュメントの不足にある。本研究では,こうした現状からの脱却を期し,画風や画伝類の記述からみて雪舟系統と考えられる画人たちについて,網羅的に考えるための材料収集を目的とした。参考とすべき現存作品は現在のところ本研究の対象としてデータベース化することができた200点ほどであるが,個人蔵を中心に未紹介作品を多数見出すことができたのは成果であった。また,幸いにして調査の機会を得た東京国立博物館蔵狩野家模本は,これらに次ぐ重要な資料であり,今回いくつかの新知見を得ることができた。ただし作品・模本ともに多くの雑多なものが含まれており,十分な鑑識ができない現在,資料としての活用は慎重でなければならない。現存作品のほかに,当初の予定通り,戦前の画集や売立目録などに掲載された作品のうち200点程度の写真を入手し,データベース化をおこなった。対象となる図版は必ずしも良好なものとはいえず,作品鑑識の可能なものは多くないが,図柄の確認は容易となったので,今後の研究とくに伝称作品の多い秋月などの研究には有益な資料となった。作品およびそれに準ずる資料を収集する一方,文献・史料もある程度まとめることができた。江戸時代の画論類から作家の伝記資料を抜粋してテキストデータベース化したが,いまはいくつかの記事が注目される程度で,分析的な検討は今後の課題である。-336-
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