鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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用としての理由があり,上製本として制作されたものと考えられる。その点でも注目できるが,それ以上に摺写された不動明王の上部に墨書著賛を認めることにこの摺仏を留意すべきであろう。その著賛であるが,熾烈猛火清浄法身利生方便奮発威神霊見とあり,これが霊見(正和4年・1315〜応永3年・1396)によるものであることがわかる。霊見は臨済宗東福寺聖一国師系の法脈の僧であるが,特に南禅寺の虎関師練の会下にも列なり,東福寺はもとより,南禅寺,天龍寺の住持にもなっている。不動明王像は作風的にも南北朝〜室町初期の特徴を示し,版画史の流れからも留意せねばならない作品であることは言をまたない。ここでは不動明王二童子の図像的特徴を考えながら著賛にも意を留め,美術史の中に位置づけてみたい。不動明王は右手に剣を持ち左手は体側に出して絹索を執る。慧々座に坐し,火烙光を配した頭光光背を背負うが,火烙光には伽楼羅焔をあしらっている点が特徴的である。顔相は天地眼に天地牙のしこめ盆怒相で頭髪は七沙髭をあらわした巻毛となっている。図②-357-

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