⑬ 狩野元信およびその周辺画家の研究ー一印影による作品の分類と整理ー一研究者:京都国立博物館主任研究官山本英男わが国最大の画閥を形成した狩野派は,それを構成する画家自体の数はもとより,遺作の数贔においても他を圧している。そのことは総じて遺品に乏しいとされる室町水墨画においても指摘され,とくに伝承作品を含めた元信画を中心としてその周辺画家のものまでも含めると,現存する室町水墨画のかなりの部分を占めるといっても過言ではないほどである。こういった膨大な狩野派作品の整理・分類につとめられたのが辻惟雄氏であって,その高論「狩野元信(l)〜(5)」(注1)や近年それを集大成された『戦国時代狩野派の研究』(注2)は中世期の狩野派を研究する上での基本的論考としての性格を有している。その中で氏は元信印に着目,後述する3タイプを元信の基準印とされることで作品整理のひとつの目安とされている。本研究も氏のそれに触発されるところが大きく,この考察法は元信画のみならず,ほとんど手つかずの状態にあるといってよい周辺画家の作品研究にも有効であるように思われる。目下,それら諸作品については調査中であり,いずれ成果を公表したいと考えているが,ここでは辻氏が試みられた元信印の分類を一歩推し進める形で,3タイプ以外にも基準印とみなしうるものが存することを明らかにしたのち,それら元信印の使用時期の問題について検討を加えてみたい。1.元信印の種類まず,辻氏が挙げられた元信印3タイプ(A,B, C)について,あらかじめ説明しておく必要があるだろう。氏の指摘によると,各印の特徴は次の如くである。まずAタイプ〔図l〕のそれは,①全体の形が細長い②両耳のきぎみがはっきりしている③把手が垂直につく④首の部分に付けられた3本の横線のうち下2本の間隔が上より狭い⑤「元」字の「)し」の部分が長短2本の平行線をなす,といった点である。他印の特徴との関連で若干これに付け加えると,把手の縦の輪郭線が口の下の線まで突き抜ける点と,「信」字の「言」が印の中心から左方にずれている点などが挙げられる。さらに,④の間隔の差が極端(上方の間隔は下方のそれの約2倍)であることも強調しておこう。次にBタイプ〔図2〕の特徴であるが,①A印に比して形がずんぐりしている②両-363-
元のページ ../index.html#371