は20年代の初期作品の色彩をそのまま踏襲したものであったことも指摘しておきたい。fig. 1 国吉康雄く祭りは終わった>1939-1947 100.5Xl76.5 cm油彩・カンヴァス岡山県立美術館そこで彼の作品における素朴なほどの具象性と,現実世界の形態への執着は,彼の制作の出発点でもあった1920年代のプリミティヴな表現を性格上はそのまま受け継ぐものであることを指摘しておきたい。この特徴はそっくりそのまま,30年代作品から40年代作品への移行,すなわち<祭りは終わった>における作風の変化についても同様に確認されることである。この作品では,極度に磨かれた彼独特ともいえる油彩画技法が十二分に活用され,同時にフォルムのとらえ方の面でも,天性のデッサンカを下敷きにして見事な完成度を示している。初期からのフォルムヘの執着は,この作品のバランスの取れた狂いのない表現にその結実が見られたともいえる。彼の長い年月にわたる,単純な要素であるが達成し難いフォルムの磨き上げの作業は,その作品を考えるとき,重要な要素の一つになってくる。このことについては,次章で時代性の関連とともに検討を加えてみたい。また技法上の問題として,色彩に関わる問題を取り上げ,内容上の問題として彼が描き出した主題に着目してみたい。まず色彩に関してであるが,1930年代の彼の作品画面に描かれた赤茶けた土や空を表現していたマチェールが,そのまま物憂げな酒場の女達を描く際の背景や衣服の着彩の方法となっている。もちろんこの際の彼のブラッシュワークについても,技術上の多少の変化はあっても,質的な変化はみられない。さらにこれに続く展開については,先の問題とともに続く章の中でさらに詳しく述べてみたい。--381-
元のページ ../index.html#389