鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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19図のページでは銅版画で使われなかったタテ長の構図が右にあり,その左ページに第20図の人物だけの簡単なスケッチが見られ,次の右ページに第20図の全体的な下絵20図は先行する二組の水彩画『ヨブ記』にも入っているが,バッツ・セットでは壁画3.ブレイク神話と『ヨブ記』1924)。この他にも,構図や姿態における左と右,上と下,ゴシックとドルイド(異教),たち」の背景にあるヨブの経験を示す壁画を上げている。フィッツウィリアム美術館では縮小サイズの鉛筆下絵を見ることができた。総計三十枚の紙(22.5 X 14. 5cm)を両開きに綴じて,主に右ページに『ヨブ記」の順番にそって下絵が描かれている。第が再び現われる。この図には銅版画にない羊が描かれている。銅版画の第19図と同じ下絵は第21図の後のページに出てくる。三人の娘たちにヨブ自身がその経験を語る第ではなく空の幻像となっており,しかも第17図とともに後の作であるといわれ(『ウィリアム・ブレイクの絵画と素描』マーティン・バトリン,1981),リネル・セットは鉛筆下絵の構図とほぼ同じであるが,他の図と比較すると未完成である。第19図と第20図の素描が他にも現存しており(大英博物館,ワシントン,ナショナル・ギャラリー),この下絵は最終的な構図が決まる前のものであろう。第20図については,銅版画の構図に最も近いテンペラ画(1799-1800頃)が水彩画よりも先に制作されている。この構図が『ヨブ記』にとって意味あるものとなったのは,ケインズが指摘している石版画「エノク」のテーマと関係していると思われる。すなわち詩,絵画,音楽という三つの霊感をキリストである想像力と結びつけるブレイクの晩年の思想がテンペラ画の構図に新たな意味を与えたのであろう。またこの構図によって銅版画の表現におけるゴシックのイメージがさらに強調されることになった。ウィックステードの解釈を発展させたのはフォスター・デーモンであるが,『ヨブ記』をタロットカードのような人間の内的なものを示す象徴体系としてとらえている。ヨハネの黙示録の「神の七つの目」にブレイクが込めた人間の霊的な段階と『ヨブ記』の展開を関連づけ,第1図から第13図までをルシファーからキリストまでの一つのサイクルとし,そこから再び第1図へ戻る二重のサイクルを考え,『無垢と経験の歌』(1794)のように魂の対立する二つの状態(State)が第13図を基点として対称的に示されていると『ヨブ記』の全体構成を読み解いている(『ウィリアム・ブレイクー哲学と象徴』十字などのもつ象徴性を指摘した。後期予言書に見られるアルビオン神話から『ヨブ-394-

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