月の意匠が認められる。中国では特に宋代以降月夜に咲く梅に対する好尚が高まり,詩文の主題に取り上げられているという(注4)。平安時代から好まれてきた梅モティーフの表現の伝統の上にたって,同時代的な新しいイメージを付加した意匠となっており,「和」と「漢」の梅の鑑賞の歴史が集約されている。このほか,室町期に特に目立ってくる主題として,建造物を含む山水,山ふところの風景があげられるが,この種の主題は,対角線構図と密接に結び付いたかたちで表されることが多いので,次の項に譲りたいと思う。②構図構図面における中国的要素としては,まず,辺角構図の採用ということをとりあげたい。この点に関しては唐絵の影響としてしばしば言及されるところであるが(注5)'新しい刺激による急速な変化というよりも,日本美術の視覚が中国画の空間把握や空間構成に馴染んでいく過程での,漸進的な発達であるという点が重要であろう。まず,長方形の画面の一方に主たるモティーフを片寄せて描く文様配置は,鎌倉時代の梅蒔絵手箱等からみられ,熊野速玉大社古神宝類に引き継がれて蒔絵の意匠構成の定法となっていく。さらに,遠近表現の発達と併行してこの発展型として主要モティーフの反対側の隅に小さい点景のモティーフを置く構図が目立つようになる。例えば鎌倉時代後期の長生殿蒔絵手箱(大倉集古館蔵)の扇面中や,長生殿蒔絵手箱(徳川美術館蔵)蓋表,山水蒔絵手箱(藤田美術館蔵)の蓋裏意匠などでは,左側に主文様を描き,右上に小さく遠景の山を配して,遠近感を表現するとともに,文様のバランスをとっている。同様の構図は,室町期の文台のように横長画面をもつ作品においては,梅月蒔絵文台や菊蒔絵文台(サントリー美術館),塩山蒔絵文台(東京国立博物館)などさらに定型化された構図として採用されているのである。このような画面構成の特徴は,同時代の扇画面,大画面の障壁画等にも認められるもので,蒔絵意匠と絵画との密接な関係を裏付けるものでもあるが,中国の漆芸品からの直接的影響を考える場合,江蘇省武進県の南宋墓出土の餃金細鈎填漆長方盆(『文物』1979年第III期所収)の蓋表に近似する画面構成がみられ鎌倉以降の叙景文のパターンを位置づけるうえで興味深い。ただし日本に舶載された伝世品の漆器には類例がみられないこと,出土品としての特殊性等を考慮に入れるとにわかにこの構図の源流-400-
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