鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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⑱ カルカー,ザンクト・ニコライ聖堂の木彫祭壇研究研究者:国立西洋美術館学芸課研究員田辺幹之助カルカー,ニコライ聖堂内装の木彫祭壇鹿島美術財団の1993年度助成金による本研究は,三週間にわたる現地調査・資料収集旅行を中心に行われ,その成果は1994年4月26日より国立西洋美術館で開催されている「聖なるかたちー後期ゴシックの木彫と板絵」展カタログ中の論考「聖堂内装としての木彫についてーカルカー,ザンクト・ニコライ聖堂を例として」(和文:p.181-192,独文:p.210-217)にも発表されている。本稿はこの研究を報告の形でまとめたものであるが,図版,参考書名についてさらに詳しくは,同論考を参照されたい(文中の挿図表示にある「カタログ」は,同展カタログを示す)。1.カルカー,ザンクト・ニコライ聖堂内装の意義ライン下流地方カルカー市のザンクト・ニコライ教区聖堂(カタログp.184,挿図3)は,ドイツ・ゴシック様式による三廊式の会堂型聖堂である。同聖堂は後期ロマネスク様式の旧聖堂にかわるものとして14世紀の末に計画され,1492年までに概ね完成された。さらに15点の大型の祭壇(14点は木彫祭壇,1点は祭壇画)を中心に,唱歌隊席,吊り燭台など木彫を主とする聖堂内装(カタログp.185,挿図5-7)の新たな造営は,建築が完成に近づいた1480年頃から始められ,16世紀半ばまでに集中的に構築された。本研究は,筆者が以前より取り組んでいるドイツ末期ゴシック時代の木彫祭壇研究の一環として行われたものであり,これらの内装具のうち,とりわけ木彫祭壇を研究対象としてとりあげている。この聖堂内装は,木彫祭壇研究全般にとって大きな意義を持つとして研究者の注目を集めているが,それは主として次の点によっている。1)同聖堂の建築と内装は,ともに木彫祭壇の最盛期にあたる後期ゴシック時代末期に集中して造営された。そのため,木彫祭壇を中心とした聖堂内装の全体像が,他の様式時代の聖堂内装プランに制約されることなく,純粋な形で示されている。2)カルカー市自体が盛期中世の末にクレーヴェ侯領内の経済的なセンターとして建設された都市であり,ニコライ聖堂はこうした都市の中心となる教区聖堂であった。そのため同聖堂には,自らの領土をもち自立した封建領主であった修道院や司教座-407-

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