鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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E発句・脇句•第三の“三の物”と初折表の下絵が密接に対応④⑭⑮⑯⑱〜⑳⑮の11種に見られる。殆どが永禄13年以降の張行であるが,④のみ詳しく調査した結果,懐紙の右端に記された「文明六年十二月廿九日…」以下の書体が本文に比べて著しく弱々しい筆線を見せ,異なっているところから,年記どおりの作例として認めてよいかどうか疑問をもった。⑭以降の10種は,年記からみて1570-した構図・金銀泥の手法・素材で描かれており,また中心となる連衆も一致していることから,この時期にある環境での連歌懐紙の創作が,ある一定の特色をもつ様式に統一され,製品化されていたことをうかがわせている。また各々の懐紙4枚は,四季の景物を四季順に一枚の懐紙の表裏にそれぞれ描いているが,初折表が春以降の夏(あるいは秋)で始まった場合は,①夏(秋)②秋(冬)③冬(春)④春(夏)というように進行する。この順番は,『無言抄』下に「雪月花の疲句にしたがひ常季の組のある昏より書事もあり」とある記述に一致している。次に⑭〜⑮の11種の連歌l衷紙73枚についてテキストと絵の表現上の問題について考察する。く初折表の下絵の構成とテキスト〉発句・脇句•第三のいわゆる“三の物”は,連歌の中で非常に重要な位置を占めている。発句は,連歌の張行された場所・情景・景気など全体の流れを方向づける内容を詠み,脇句は発句を受けて内容をふくらませ,第三は発句の示した内容から離れて次への展開を導くように付ける。このような“三の物”各々の役割を連句の流れが下絵として初折表の横長の懐紙の中に描かれるとどうなるか。大体横長の画面(屏風の縦横の比率に近い)を右・中央・左の三つのブロックに区切り,“三の物”各々に詠まれたモティーフを描くのが基本的な構成であるが,さらに対応する関係を細かく観察すると次の4つのタイプがある。a逐語的に対応するモティーフを,右から順番に左へ並列的に配する。b中央・右の部分に発句と脇句の内容を組み合せて配し,左に第三と対応する内容を配する。C中央に発句に対応する内容を描き,右の部分に脇句と第三の内容に対応する下絵を15世紀に遡る年記がある。そこで今回ケンブリッジのA・サックラー美術館において1596と26年余りの開きがあるが,次章で詳しく述べるように,とくに⑮以降殆ど一定III “三の物”と一致する下絵とその表現―-430-

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