⑤ 近江における阿弥陀彫像の基礎的研究研究者:滋賀県立近代美術館学芸課主査高梨純次近江国は,天台浄土教の本拠地比叡山延暦寺の膝下にあたり,平安時代以降の注目すべき阿弥陀彫像が現存している。筆者は,滋賀県や各地の市町村の文化財調査の一環として,また各機関の協力のもとに,これらの作例を中心に調査・研究を続けているが,ここでは,鎌倉時代初頭,慶派の手になると思われる,いわゆる三尺の阿弥陀如来立像を中尊とする阿弥陀三尊像について,概要の紹介と若干の考察を加えることにする。JR大津駅に近い,町中の大津市京町2丁目に建つ善通寺は,天正1年(1573)善慶によって開基された天台真盛宗の寺院である。この善通寺には,平安後期にさかのほ‘る木造十一面観音立像をはじめ,中世にさかのは‘る木彫2体程が伝えられるほか,高麗仏画と鑑され,大津市指定文化財となる絹本著色釈迦三尊像なども伝えられている。ここに紹介する木造阿弥陀三尊像は,善通寺本諄として本堂須弥壇中央に安置される立像で,制作が鎌倉時代初頭にさかのぼり,慶派の手になる優作として,特に注目される作例である(注1)。当稿では,レントゲン撮影などによる新知見にもとづいてこの三尊像の概要を紹介することとする(注2)。中尊阿弥陀如来立像は,木造・漆箔・金泥塗・玉眼嵌入,像高は82.3cmである。両脇士は,木造・漆箔・玉眼嵌入,像高は右脇士勢至菩薩立像,左脇士観音菩薩立像ともに49.8cmである(注3)。最初に,中尊の形状から触れてゆく。肉髯相で,旋毛の螺髪正面髪際で左右に27粒,地髪5段・肉誓6段を彫出し,額の髪際に顔料を賦している。肉髯珠・白奄に水晶を嵌入し,目に玉眼を嵌入して半眼,唇に朱を点じて閉口し,耳染は環状として中心を抜き,三道を彫出する。納衣は,襟で折り返して左肩から右脇腹へと廻らして,左腕を覆って垂下し,偏杉が右肩から右腕を覆い,右腹前で納衣の縁にたくし込み,一部かたるんで垂下する。裳は背面中央やや左よりで,右からの布を外にして打ち合わせる。右腕は屈腎して右胸の右前で,左腕は垂下して左大腿部の左前で,ともに掌を正面に向けて第1• 2指を捻じた来迎印を結ぶ。左足をやや前に出し,足裏の角ほぞを台座蓮肉上のほぞ穴に差し込んで立つ。表面は錆漆地とし,耳孔や耳後ろに金泥が残-37-
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