鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
450/475

磐の上に塗られた漆喰層は2-3mmと非常に薄く,下層には別の描画層はありません。このあたりには,廃屋となった農家が点在し,工場地帯が進出してきており,このまま放置されれば,数年以内に壁画は完全に消滅すると思われます。• (3) SS. Stefani 所在地:Vaste (Poggiardoから3キロ)起伏のある荒地の中に岩磐をくり抜いた小さな穴がいくつも見えてきます。かつて隠修士が暮らした穴ですが,その薮につつまれた丘を越えると,サンティ・ステーファニ教会の廃墟があります。荒廃するままに(16世紀以後)世紀を重ねてきた教会で,多くの聖人たちの目がえぐられています。壁画を制作する時に,ビザンチンの隠修士たちが目の下に宝石を埋めたのではないかと,近隣の農民たちがえぐってみたからにほかなりません。相当量の壁画がのこっていますが,判読できる主題としては,「黙示録」「大天使に囲まれたキリスト」「アレキサンドリアの聖女カテリーナ」「聖ステーファノ」などがあります。これらの壁画の多くは明らかに4世紀のものですが,その下に3-4層の壁画が塗り重ねられています(最も古いものは11世紀前半か)。ここから100mほどのところに6世紀ビザンチン時代のキリスト教徒たちの墓地が,ごく最近(1993.6)になって発見されていますから,このあたりのキリスト教文化は6世紀にさかのぼることができそうです。所在地:Veglie(校外の墓地の敷地内)旧クリプタであったと思われますが,現在はトンネル状の入口(北東を向いて)がポッカリと地上に口をあけています。トタン張りの囲いがあるために,直接の風雨は避けられているものの,堂内は湿度が高く,壁画には細かな水滴が一面について照明を当てると光ります。最奥の祭壇(ニッチ)は南東に向かって設けられ,「三位一体」(地上から95cm,高さ130cm,内径78cm)が描かれています。その周囲には,幅60cmくらいの枠の中に諸聖人の立像が並び,「聖痕を受ける聖フランチェスコ」(「三位一体」の右側)も見られますから,制作は13世紀をさかのぼることはありません。聖人名はギリシャ語ではなくラテン語で書かれています。(4) Favana -441-

元のページ  ../index.html#450

このブックを見る