もし,この推測が許されれば,大福田寺本は,仏伝文学研究者の意見とは別の観点から一致し,本図が仏伝経典以外の派生的なテキストに一部分影響を受けていたことになる。遡ればそれは『太子成道経』のような,二次的なテキストに行きつくかものかもしれない。本福田寺本の画中に,小さい短冊形で「託胎相」「出家相」「降魔相」「成仏相」などと記されているのも,説法などのより庶民的な場を想像する時に首肯されるものがあるのではないか。以上の場合は,テキストと絵画の表現との関係にのみ注目して考察を進めたが,実際は絵画の図様の研究も併せてすべきであり先の渡辺氏もそれを行なっておられる。絵画の図様そのものについてはそれが独自の継承関係を保持するものと考えるので,テキストと絵画の関係とは別に考察する必要がある。ただしここではこの事を指摘するに留め,詳細は別の機会にゆずりたい。-457-
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