⑥ ポンペイ第一様式とその腰羽目研究者:東京大学大学院人文科学研究科博士課程トレント大学言語歴史科学科研究生1)定義を発表し,古代ローマの建築家Vitruviusの著作Dearchitectura (7.5.1-3)の記述を考慮しつつポンペイの壁画を構造的および形式的分析の組合せに基づいて4グループに分類した。その第一グループを「第一様式」と名づけた。彼は「第一様式は次の点で他のすべての壁面装飾と異なる。つまり平らな壁に絵を描くことで満足しているのではなく,ここでは大理石パネルを立体的な化粧漆喰によって模倣しているのである。大理石パネルにはしばしば建築装飾物が挿入される」(p. 7)と述べる。その年代を凝灰岩時代(前200-80年頃)としている。これに対し解に基本的には賛同しながらも,それ以降に制作されたものでも同じ装飾法であれば第一様式とみなされている例があることを指摘し第一様式を以下のように定義した。「第一様式とは漆喰が施されている建物の建築用材の年代にかかわらず,溝彫りや型押しのなされた幾何学的パターンや張出パネルを伴う3次元的な剖形によってきわだたせられたあらゆる壁面装飾である」(p.17)。第一様式の定義としては現在のところもっとも適切であると思われ,筆者もこの定義にならう。この定義はポンペイ第一様式に限らず地中海域におけるすべての同壁面装飾法に当てはまるものである。地中海域においてとりわけヘレニズム時代に発展・普及した装飾法であり,東方のギリシアでは「組積造り様式MasonryStyle」,西方のイタリアでは「ポンペイ第一様式」というように異なった名称で呼ばれている。ギリシアのこの壁面装飾法を「第一様式」とは呼ばない意見もあるが,ここでは同一文化圏における同装飾法を一括する意味での総称として採用したい。それぞれの第一様式装飾壁面の用語はLaidlawのそれに従う〔図1-2〕。1882年にAugustMauはGeschichteder decorativen Wandmalerei in Pompeji 1985年に第一様式に関するカタログつき大著を発表したAnneLaidlawは,Mauの見今井桜子-46 -
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