鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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2.壁面隅の処理法Andreas Andreouは1988年にギリシアにおける漆喰壁面装飾に関する博士論文を発20-30cmの高さであるが,63cmのようにさらに高くなる場合もある。ポンペイ第一様2)組積造り様式とポンペイ第一様式との比較ギリシアの組積造り様式とイタリアのポンペイ第一様式との相違に関しては主に以下の2点が指摘されている(注2)。1.幅木と腰羽目組積造り様式においてもポンペイ第一様式においても壁面は水平方向に大きく3層に分割される。ギリシアの場合は丈の低い幅木が最下層に配され,そのうえに主腰部・上部が配される。この壁面構成は切石による組積造りの実用的な構築法に従っている。これに対しイタリアの場合は最下層に高い腰羽目(平均約1m)が配され,実用的な構築法からは離れる。(遺例の多い)デロスにおける部屋の壁面装飾ではほとんど常に各壁面1単位として捉えられる。これに対しイタリアにおける壁面隅の処理法は,壁面隅に柱がある場合でもそれは部屋全体を巡って連続する統一的なパターンの一部をなす要素として表わされる。つまり「ギリシアの美術家は第一様式の壁面装飾を個々の壁面で完結する装飾単位として見ていたのに対し,ローマの美術家はそれを連続的に囲まれた空間の境界として見ていた」(Laidlaw,p. 37)。ここでは腰羽目の存在に注目しながら水平壁面分割を取り上げてみたい。表した。彼はカタログを設け壁面パターンによってそれらの装飾を8タイプに分類し,またそれぞれの装飾要素に関しても記述を行なっている。彼によると,幅木(p.155-158)は圧倒的な例数でギリシア壁面装飾に見られ,通常式の腰羽目にはそれよりも低い例がある(コーサ)(注3)。また組積造り様式の幅木で興味深いのは次の2点である。少数だが上下2層に分割される幅木の例がある点。幅木と主要部が結合してひとつの高い腰羽目になる例がある点。前者のデロスの1例は幅木の高さが68cmにもなる。ポンペイ第一様式の蹴板に腰羽目が配された形を連想させる。また後者はギリシア壁面装飾における腰羽目の存在を知る上で意味がある。彼による幅木に関する記述には含まれていないが,標準的なポンペイ第一様式装飾とほぼ同様の壁面分割によって装飾されている例がある。ペラの「彩色漆喰装飾壁面の家」ペリステュリウムヘの通路とアンフィポリスの「ヘレニズムの家」A室の2例-48-

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