話の数々は,十九世紀以降の西欧の画家たちのみならず,イスラム圏の画家たちをも魅了したであろう事は想像に難くない。しかし,研究者の間には唯一「シンドバッド」の挿絵を含むボードリアン図書館所蔵のOr.133番写本が知られているにすぎない。この133番写本は,縦16.3cm横25.6cmで,頁数177,テキストはアラビア語混じりのペルシア語で書かれ,ちょうど百葉の挿絵が付されている。この写本は全1冊で,別名「アブー・マーシャルの学術書」,或いは「プルハーンの書」とも呼ばれ,内容は主として天文学と占星術に関するものを扱っている。ミニアチュールの方は,1399年にジャラーイル朝下のバグダードで制作された。ライスやB.グレイが指摘するように,モンゴル族侵入以降に製作されたものとはいえ,それほど中国画の影響も示さず,ダブリズ派の先駆をなす作品となっている。また,書体の違い,形式の違いから現在は1冊になっているとはいえ,明らかにフォーリオ131レクトーからは別の写本であることも明白である。この点に関しては,この写本のモノグラフを出版したS.カルボーニも指摘し(注3),前者をキターブ・アルマワーリード「誕生の書」,後者を「ブルハーンの書」としている。「千夜一夜」のミニアチュールは前者の方に含まれる。調査の結果,前者のミニアチュールは構成上,6つのグループに分けられることが判明した。まず,第1のグループ16葉は,フォーリオ2のヴェルソから22のヴェルソまでと25ヴェルソ,26レクト,27レクト,27ヴェルソ,29ヴェルソで,画面中央のメダイヨンに星座の象徴を描いたものとなっている。第2のグループは,28のレクト・ヴェルソおよび29ヴェルソから33レクトまでの10葉のデーモン(魔人)を描いたもの,第3のグループは33ヴェルソから46ヴェルソまでの27葉で,ここにはファンタジーの世界が描かれている。この第3のグループに3葉の「アラビアン・ナイト」挿絵が含まれる。半円に第1のグループに見られた星座の象徴が描かれているが,第4のグループの画面では下部の建築モティーフそして人物の描き方が第3のグループと同じものになっている。ある意味で第4のグループは1と3の画面を合成した構図といえよう。第5のグループは50のレクト・ヴェルソおよび51レクトの3葉でこれは天体航行図を描いている。第6のグループは,81ヴェルソから93ヴェルソの24葉に描かれた画面を仕切る枠線が一切描かれていない見開き1ページずつの星座の図となっており,このグループには117ヴェルソ118レクトの見開き1頁に描かれた天体図も含まれると考えられる。後者の写本には,164ヴェルソから169レクトまで12葉の半頁大挿絵が描かれてい第4は,47ヴェルソから49レクト・ヴェルソの5葉で,これらの画面には再び上部の-66 -
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