1乍品であると思われる。るが,使われている顔料の種類,画風および背景に描かれた植物・建築モティーフの共通性などから前者の写本と同一のアトリエで,おそらく同一の画家により描かれた問題のアリフ・ライラの挿絵は,43レクト「シンドバードと海の老人(シンドバードの第五航海)」[図1], 45ヴェルソ「黄銅城の物語」[図2], 46ヴェルソ「宝石の峡谷(シンドバードの第2航海)」[図3]に描かれ,アラビア語風のペルシア語表題が付けられている他,テキスト部分はない。また,41ヴェルソには「千夜一夜物語」にも登場する「ワクワーク島の不思議な樹」が描かれているが[図4],「ワクワークの島々」は「千夜一夜物語」の第162話「バッソラーのハッサン」に登場する。この話は「白烏処女説話」つまり「天女の羽衣」の話で,天女(「アラビアン・ナイト」では魔法使いの娘)が,奪われた羽衣を取り戻し,それを着て帰っていく故郷,それがワクワーク島となっている。羽衣を奪い天女の夫となった男ハッサンは,後に妻と2人の子どもを捜してワクワーク島に向うが,限難辛苦の末たどり着いたその島は女護ヶ島(男子禁制の女人の島)であったという設定である。東洋文庫「アラビアン・ナイト」第16巻にもあるとおり,ここに出てくる「ワクワーク島」の伝説は古くからアラブ諸回に伝わっていたことが知られ,この写本からペルシアにもワクワーク島の伝説が伝えられていたことが判る。図1「シンドバードと海の老人」(第5航海)図2「黄銅城の物語」-67-
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