鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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なら「シンドバードの第二航海」に当たるが,この話もまた他の「シンドバードの冒険物語」同様,背後に航海冒険輝の系譜,つまり独立した文学史を持つことから,闇雲に「アラビアン・ナイト」挿絵擬きが製作されたわけではなく,繰り返すことになるが,「シンドバードの冒険物語」や「黄銅城の物語」の2つのような背後に普遍的な文学史をもった挿話のみが,はっきりそれと分かる形で絵画化されたと言えるのではないだろうか。特に,1258年アッバース朝がモンゴル族の侵入によって倒された後は,ミニアチュールエ房の中心は,ペルシア系の王侯貴族のアトリエヘと移って行き,その結果アラブ世界のミニアチュール製作は行われなくなってしまう。従って,「アラビアン・ナイト」の挿話もペルシア文学にうまくファンタジー要素として取り込まれたものが,写本のミニアチュールとして描かれたのだと考えられる。おわりに今回の調査では,対象が英国に残るイスラム写本(特にボードリアンOr,133番)に限られ,実際にイスラム圏に赴き未知の写本を発見するには至らなかった。また,「ルバイヤート」の挿絵も,欧米の翻訳版に付されたものに関しては,相当数閲覧することができたが,完全なリストを作成することはできなかった。ミニアチュール付き「ルバイヤート」のペルシア語写本もほとんど知られていないので,今後更なる調査によって全容を明らかにしたいと思っている。図6創造物の驚異「巨鳥ルーフ(ロック鳥)にぶら下がり飛行する若き船乗り」-71-

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