鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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II 聖母マリア柱の群彫刻モニュメントプラハの旧市街を例にあげるまでもなく,ボヘミアの古い町のほとんどは広場を中心に形成されている。その広場の中心には,町の象徴ともいうべき高い鐘塔を備えた市(町)庁舎を配しているのが通例であり,その同じ広場にはしばしばモニュメンタルな彫刻が置かれている。ドブルシュカもその例外ではなく,広場の中心にルネサンス様式で建てられた町庁舎(クプカの父親はここで仕事をしていた)は,遥か遠方からも望める58メートルの高さの鐘塔を備えているが,この建物の傍らに聖母マリア柱の群彫刻モニュメントはある。このバロック様式によるモニュメントは,フラデツ・クラーロヴェーの彫刻家オンドジェイ・デツケルが1733年に制作を開始し,1736年にヴァンベレツの彫刻家ムネルニッキーが完成したもので,以下の構成をとっている。まず,正方形の四隅が凹面状に内側に食い込んだプランをもつ高さlm程のバラストレードが,モニュメント自体を取り巻いている。灰色砂岩の大きなブロックで造られた基壇は2段構成を成し,その上に長い柱が立つ。正方形のプランをもつ高さ2m程の第一の基壇の4つの側面には,レリーフ状にカルトゥシュが彫られ,その中にラテン語の銘文と1733年の年記(2面),コロレード=マンスフェルド家の紋章,ドブルシュカの紋章がそれぞれ彫られている。この基壇の四隅には大きな渦巻装飾が付されている。それぞれの渦巻装飾の上部には,褐色砂岩に彫られた聖ヤン・ネポムツキー(ヨハネス・ネポメツ),聖フランティシェク・クサヴェル(フランシスコ・ザビエル),聖フロリアン(フロリアヌス),聖ヴァーツラフの4体の彫像が立つ。同じく正方形のプランをもつ第二の基壇は,第一のそれの上に45度回転した状態で載っている。この2段構成の基壇にコリント式柱頭をもつ柱が載り,その頂上に金箔を貼った聖母マリア像(この像は当初フラデツ・クラーロヴェーのイエズス会の宿坊のために制作されたもので,風化で傷みが激しいので,オリジナルは現在オポチノ城に展示保管されている)が載っている。以下に,このモニュメントに見られる円と垂直の要素を抽出することにする。円(弧)の要素としてまずあげられるのは,バラストレードの手摺りの曲線である[図2]。また,バラストレードの基礎をなす2段のステップもこれと同じ曲線を描いている。2段構成の基壇のうち,単なる矩形のマッスにすぎない上の基壇とは対照的に,下の基壇には円の要素がふんだんに見られる。つまり,基壇の四隅に付された大-109-

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