鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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図5工場「ラ・フェルム」のと考えられる。この絵で興味深いのは,前章で考察した聖母マリア柱の群彫刻モニュメントとの共通性が多く見られることである。画面の下には何も書かれていない紙状のモチーフがあるが,その隅々は渦巻状に丸まり,先に見たカルトゥシュとその装飾に非常によく似ている。また,画面上部のリボン状の帯の端も渦巻状になっている。画面中央に浮かぶ寓意像の衣は風でふわりと広がり,モニュメントの5体の彫刻と同じく典型的なバロック様式である。その下にはハプスブルク家の紋章である双頭の鷲とそれを取り巻く装飾が描かれている。画面左では,鎧をまとった聖ヨセフが,ドブルシュカの紋章の入った旗竿を右手に持っている。その後ろには矩形の基壇と円柱の一部が見えているが,この絵の内容から判断して,これは聖母マリア柱のモニュメントを描いたものに間違いない。興味深いことに,柱の前に描かれた聖ヨセフの姿は,モニュメントの渦巻装飾の上に載る4体の彫刻のひとつで同じく右手に旗竿を持つ聖ヴァーツラフ像[図6]を連想させる。また,聖ヨゼフと柱の位置関係は,モニュメントの聖ヴァーツラフ像を人間の目の高さで眺めた場合の像と柱の関係にほぼ一致している。このように,この《工場「ラ・フェルム」》は,聖母マリア柱の群彫刻モニュメントで考察した円と垂直の要素が絵画の中に反映された現存する最初の作品であり,モニュメントそのものや,その細部に見られる装飾的な要素の影響が明確に現れているのである。ドブルシュカ時代のクフ゜力の視覚体験がこの1点に集約されているとも言え-112-

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