⑪ 邪鬼の研究~怖・嫌悪の造形—研究者:東京国立博物館学芸部企画課普及室研究員浅漱はじめに仏教の伝播とともに,仏教図像も東南アジアヘ,また中央アジアから中国,朝鮮,そして日本へと広がっていった。それは各民族で形を変え,あるいは新たに作り出され,様々な造形を生んだ。本研究は,その仏教図像の中でも邪鬼と称される鬼を中心に,ひろく鬼形像の研究をおこなうことを目的としている。鬼形像の制作目的の一つとして考えられるのは,見るものに畏怖,嫌悪の感情を抱かせることである。鬼形像から与えられる畏怖,嫌悪の感情が強ければ強いほど,それを捩り伏せ信者を守護するものの力も強くなるからである。しかしながらその造形に際しては,経典などに形状に関しての具体的な記載がないため,制作者が自由に造形を行う余地があり,畏怖,嫌悪にたいする制作者および受容者のイメージが如実に現われる。従って,自ずとそこには各民族,各時代固有の畏怖,嫌悪のイメージが反映されているはずである。まずそこで,邪鬼(鬼形像)の造形の例を次の四種類に分け,資料を収集し考察を行った。(1) 四天王に踏みつけられるもの(2) 香炉などを捧げ持つもの(3) 仮面に表わされたもの(4) その他これらに関して考察を進めるうち,(3)の仮面の中でも特に,伎楽面の窺裔が中国および我が国での邪鬼の造形の変遷を考える上で,重要な鍵を握ることが解った。よって本報告では伎楽面の混裔に関して論考を進めることにしたい。1支楽面について現存する伎楽面は木製または乾漆製で,7世紀末から8世紀にかけての遺品が中心となる。東京国立博物館保管の法隆寺献納宝物中に31面,本来はそれと一具であったと思われるものが法隆寺に1面ある。また,正倉院には171面,東大寺には30面が伝わっている。正倉院と東大寺の面も元は一括のものであったが,いつの間にか別れたら毅-125-
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