鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
138/588

て頬,顎の張りは弱く全体的に小振りである。念怒の表情を浮かべるものの,ューモラスな感じが漂う。牙は上から2本のぞく。耳は献納宝物面同様に尖り獣耳である。[正倉院木彫112号・図3]この面も88号に劣らず優れた作風を示すもので,制作もほぼ同時期のものと考えられる。技法的には桐材に漆地ではなく白土地を施す点が異なっている。額,頬などを瘤状に盛上げることによって威相を示すが,先の2面に比べてその表現はやや形式化の傾向を見せる。[正倉院木彫101号・図4]毛利久氏によれば地方的作品であるという(注3)。頭頂に1本の角を持ち,完全に鬼形として表現され人間的な要素を感じさせない。全体に形式的な作りであるが,口の中央部だけを結び,両端を大きく開く特異な表現をみせる。[正倉院木彫98号・図5J 現存する鹿裔面の中ではもっとも縦長なプロポーションを持つ。左右が非対称的に歪んでおり舞楽面との関連を思わせる。上歯で下唇を噛み両端から大振りな牙がのぞ[正倉院木彫79号・図6J 「常陸」の銘文を裏面に持つことから,地方作と考えられる。白く彩色され,髭などの短い毛を墨で乱雑に描く。鬼というよりは獣形に近く戯画化された虎などを思わせる。[正倉院木彫48号・図7J 頭頂に前後に二又に別れる角を持つ。石田茂作氏は88号面と同時期の制作であると想定されている(注4)。しかし,13面の現存する罠裔面のなかでも,もっとも恐ろしげな表情で鬼としての要素が強く,舞楽,追灘の鬼形面に近い造形で,また,檜材で一部他材を寄せるなどひときわ異彩を放つ。-128-

元のページ  ../index.html#138

このブックを見る