⑭ 古代ギリシア絵画におけるアルゴスの三つの神話19)である。第1のタイプでは,Ioは女であるにも拘らず牡牛の姿で表されることが多く,それ研究者:東京大学文学部助手羽田康一本研究が2年間を要するものであることは申請書に記しておいた。この報告書は1年を経過した時点での中間報告である。1年目の主題はIo(イーオー)であった。その基礎的な考察として,94年5月に美術史学会の全国大会で口頭発表したものが,95年5月刊行予定の『美術史』137,1-18(以下羽田1995と略記)で活字として公表される。95年5月10日現在抜刷が未着のためこの論文を添付することはできないが,ここにその内容を要約する。は,Athenaiで1年の最後の月であるSkirophorionの14日に行われたBouphonia祭の構造と基本的に同一である。そしてArgosでも,AthenaiでHekatombaionの28日に行われたPanathenaia祭に相当するHeraia祭の前に,Bouphonia祭に相当する祭か行われたと推定される。Io神話とBouphonia祭の犠牲式を比較すると,Argosは犠牲の牡牛,Ioはその牡牛を統率者としていた牝牛,Heraは牛たちの保護者,Hermesは牡牛殺し,Zeusは犠牲獣の受取人,という対応関係が引出される。あったという認識は,造形の世界における神話の語り技法の理解を深める。供犠との関係はIo神話を表した遺品の随所に痕跡を留めているが,語りと暗示の技法の観点から,とりわけ2つの図像タイプが最重要と目される。1つはHermesがArgosを殺害する場面を描いた陶器画の一群(羽田1995,挿図2,4, 5, 7, 8, 9)。もう1つは人間の姿のIoを座像で表す一連の陶器画と壁画(同,挿図12,13, 14, 15, 16, 17, によってArgosの供犠では牡牛が殺されたことが示されている。攻撃者が左手で相手の髪や首を櫻み,敗北者が相手の方を振り返り,片脚を折り,片脚を相手の足の方に伸ばす,というHermesとArgosの形の組合せは,ギリシアでは前7ー前6世紀の戦-Andromeda, lo, Amymone-1. Io, Argos, Hera, Hermes, Zeusを登場人物とするArgosのIo神話の構造2. ArgosのHeraionのHera神域で行われた牡牛の犠牲式がIo神話の生成の場で-159-
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