2.聖ヨハネ祭壇画この作品は,メムリンクによる大規模な三連祭壇画のうち,現存する三点の中のひとつである。様式に大きな変化が見られない彼の作風の中でも,初期に顕著なロヒールの影響から離れ,独自の柔らかさや多彩な華麗さが現れてくる中期の基準作となっている。両扉外側[図2]には,メムリンクが1473年頃から接触をもち始めた聖ヨハネ病院関係の聖職者が,左に男性二人右に女性二人,各々の守護聖人に仲介されながら祈る寄進者として描かれている。中央画では,玉座に座る聖母子を中心として,向かって左に幼児キリストから指輪を授かるカタリーナ,右に読書をするバルバラが共に床に座している。カタリーナの足元には,殉教の道具である砕かれた車輪と剣が,バルバラの背後には,幽閉された塔がアトリビュートとして描かれている。華麗な衣装のカタリーナの背後には,同じ<豪華な錦織の服を身につけた奏楽天使が,聖母とバルバラの間には,聖母のために書物をもつ白い修道服の天使が詭く。幼児は,彼によってあがなわれる原罪を象徴するオレンジを左手にもち,右手で指輪を授けなからカタリーナの方を向いている。これに対して聖母は,天使のもつ本のページをめくるために,バルバラの方を向く形となっている。顔をあげたカタリーナとキリストとのより動的な関係と,目を落として読書をする聖母やバルバラの静かな姿とを対比させながら,ほぼ左右対称の三角形に収まるグループが,まず第一に聖母-171-図2ハンス・メムリンク<聖ヨハネ祭壇画〉扉絵左翼ヤーコプ・ド・セウニンクと聖大ジェームス,アントウニス・セーヘルスと聖大アントニウス右翼アグネス・カーセムプロートと聖アグネス,クラーラ・ファン・フルセンと聖クララ
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