鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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子をとりまいている。このグループの背後には,垂直に立ち並ぶ列柱の水平方向へのリズムにアクセントをつけるかのように,左に小羊をしたがえた洗礼者ヨハネ,右に毒蛇の潜む聖杯をもつ福音書記者ヨハネが立っている。二人のヨハネは,左右両翼において,共に地面に身体をつける形で,再び大きく姿を現している。両翼に視野を広げて見るならば,聖母の頭上でその栄光の冠を手にして浮かぶ二人の天使から,二人のヨハネのそれぞれ二つの頭部をつなぐ線を斜辺とした,より大きな第二の三角形が,先のグループを取り囲み,煩雑に堕さないよう画面をまとめあげている。こうした中央画の一団がいるのは,宮殿のロッジアのようなところである。列柱によって生み出される浅い半円型の空間は,明らかにヤン・ファン・エイクのくファン・デル・パーレの聖母〉[図3]の仕組みを思い起こさせるが,閉じられているわけではないその構造は,より曖昧である。列柱の背後には,二人のヨハネの生涯と,聖ヨハネ病院の現実に関わる逸話が点在する風景が広がっている。列柱は一続きの風景を区画化し,生じた時間も場所も異なる逸話同士の不整合性を緩和する働きをしているのである。左右両翼でも,建造物や丘や島などの地理的モチーフが類似した役割を担っ図3ヤン・ファン・エイクくファン・デル・パーレの聖母〉1434-6年122X 157cm フルーニンヘ美術館,プルッヘ-172-

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