とんどであったのに対して,ここでは洗礼者や誘惑をいましめるアントニウスが描かれている。祭壇画に描かれる聖人の選択は,寄進先や寄進者の守護聖人と大きく関係しているとはいうものの,甘美さを示すだけでなく,いましめを意味する聖人が取り入れられている点に,メムリンクにつながるフランドル的な性格を感じることができる。ところで,宮廷文化として華開いた十五世紀初頭の国際ゴシック様式の中で,天の宮廷での聖母の安らぎを最も廿美に表現してきたのは,ステファン・ロッホナーを中心としたケルン派の画家たちであった。ケルン派で活躍していた逸名の「聖ヴェロニカの画家」によると思われる三連祭壇画[図5]の中央画面に,二人のヨハネと聖女たちに囲まれた聖母子の作例を見ることができる。こうした図像の伝統はさらにさかのぼることもできるが,メムリンクの場合と異なり,二人のヨハネは地面に座り,左右の位置も逆転している。またここにも,ロッホナー流の廿美な安らぎの表現に加えて,その安らぎの理由を説明するような,より教義的なモチーフが含まれている。しかし,カタリーナに特別な性格が与えられることはない。メムリンクの作品には,しばしば指摘されるように,イタリア的なく聖会話〉の形図4「フレマールの画家」の追随者く楽園で聖人たちに囲まれた聖母子〉1440-1460年119. 9 X 148. 8cm ナショナル・ギャラリー,ワシントン-176-
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