者の仲介者として立像で描かれているジョン・ドンヌの三連祭壇画[図8]も,全体の構想は異なっているが,多くのモチーフを共有しており,<聖ヨハネ祭壇画〉から刺激を受けて制作されたものと考えられよう。メムリンクの中でも注目すべきなのは,薬草や香辛料を扱う商人であったジャン・ドゥ・セリエの二連板[図9]と呼ばれる小さな個人用祈禰画である。左翼では,バラの生け垣によって閉ぎされた庭の中で,六人の聖女が聖母子を円座に囲んでいる。右翼では洗礼者に仲介された跳く寄進者の姿があり,遠景には黙示録の女と竜との死闘のヴィジョンをみる福音書記者ヨハネや,聖ジョージと悪竜との闘いの場面が点在し,聖ヨハネ祭壇画の構想を凝縮したものとなっている。左翼の〈聖女たちに囲まれた聖母子〉は,<聖ヨハネ祭壇画〉よりもより甘美な優しさを備えたものとなっているが,この種の作例に見られるように,アトリビュートでその個性が示されるだけではない。ここでは,聖女のひとりひとりが,キリストとの関わりをより積極的に表す身振りやモチーフをもつようになっている。指輪を授かるカタリーナの背後には,指輪を捧げようとする聖アグネスの姿がある。さらに奏楽聖女やバラの生け垣,目をえぐられた聖ルシアが続く。地上の聴覚,嗅覚,視覚に対する霊的な感党を表していることは,聖ルシアが胸にあてた手によってより強められる。さらに家庭婦人の鏡といわれた聖マルタ(あるいは出産の守護聖人聖マルガレータ)が続き,読書の手を休めて顔をあげる聖バルバラのところで一巡することになる。これらの聖女たちの選択や配置には,天の侍女としてよりも天の花嫁としての美徳を,図9ハンス・メムリンクくジャン・ドゥ・セリエの二連板〉(左翼)1482年以降右翼25.2Xl5.lcm 左翼25.8X 16cm ルーヴル美術館,パリ-180-
元のページ ../index.html#190