5.結びにかえてより具体的に提示しようという意図が感じられるのである。〈聖ヨハネ祭壇画〉は聖母および二人のヨハネヘ寄進されたことが明らかであるにも関わらず,形式的にも意味的にもカタリーナの神秘の結婚に与えられた役割は非常に大きい。この作品が前世紀以来<聖カタリーナの神秘の結婚〉と呼ばれてきたのは,むしろメムリンクの意図にそうものであったようにも思われる。彼はカタリーナ伝説に現れてきた指輪の授与という世俗的なモチーフを効果的にとりいれることで,カタリーナの花嫁としての性格を強め,それを中心にして救済の教義を具体的に形象化している。それまでの聖女たちが,アトリビュートによって個性化されながらも,聖母の天の侍女という性格が強かったのに対して,花嫁としての具体的な性格をもつ傾向を生んだと思われる。さらにくジャン・ドゥ・セリエの二連板〉では,聖女たちが当時考えられていた花嫁としての美徳のそれぞれを表すようになっているのである。最後に,こうした考察に基づいて,聖女たちが天の侍女としてとりなしの機能を果たすことから,同時に花嫁たちの教訓を与える画像へと性格が変化するのではないかという仮説を立てることができる。この仮説を裏付けるものは,今のところ曖昧な断片でしかない。例えば,十六世紀半ばには,ソロモンの知恵が盛り込まれた「蔵言」に基づく,妻の教訓書が挿絵入りで広まっていること。十九世紀の中世絵画リバイバルの機運の中図10フランドル派の模倣者<聖カタリーナの神秘の結婚〉20世紀初頭所蔵地不明H. Wolff, Early Netherlandish Painting, 1986, Washington, p. 88, Fig.1. --181-
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