鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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ヽヽノぼす独裁政治の恐怖を視覚的に高めるものだが,ューモアとイロニーを含んでいる。《アドルフー超人》[図1]はレントゲン写真に,ヒトラーの顔と金貨がモンタージュされ,あたかも金貨を蓄積した体内が透視されているように見える。この強烈なイメージと「金を飲み込み,ブリキを語る(馬鹿なことを言うという意)」のレトリックによって,ハートフィールドはメディアの効果を最大限に狙ったナチスの大衆宣伝を逆手に取り,異化による批判行為へと転じている。だが,強烈な批判行為とは対照的に,頭いコントラストや明確な輪郭,絶対的な黒や白を避け,セピア色の柔らかい色調を選択している。そこで平面的なモザイク空間の革新性とともに,フォトモンタージュはそのプロパガンダ的特質よりも芸術性を再評価する傾向が生まれた。とくに1991年のハートフィールド生誕100年の回顧展は,この流れの契機となった。ハートフィールドは異化を演劇の舞台効果にも適用し,ベルリンで公演されたブレヒトの『肝っ玉かあさん』において,舞台上に革命家や戦争指導者の巨大な映像を写し出し,視覚的なショックを与えながら,ツァ一時代のロシアの緊迫した状況を巧みに演出している。同じくダダのイロニーとして,クルト・シュヴィッタースのコラージュによるメルツ芸術も一考を要する。シュヴィッタースは「すべてのものが崩壊した後,がれきから新しいものを創造することが重要だ。それこそメルツだ。私は描き,釘を打ち,糊付けし,多層化することによって,ベルリンを体験した」(注3)とメルツの一定義を諒った。実際作者の身の回りの素材によって構成されているメルツ絵画に,杜会的観点を否定できないだろう。「労働者」と書かれた赤い扇動的な文字や「最近のほとんどのストライキは」という新聞の活字の切り抜きが糊付けされた《労働者像》,あるいは,当時は贅沢品であったチョコレート,コーヒー,煙草の広告がコラージュされた/・ 図1ジョン・ハートフィールド《アドルフー超人》1932-185-

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