鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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とモチーフの間合いなどがある。最後の「間合い」とは,ひとつの画面の中に2つ以上のモチーフや場面を描く場合に,両者の間に置かれた過不足の無い充分なスペースのことを指している。この間合いにより各々のモチーフや場面はそれぞれの絵画表現を犯さずに,しかも自然なつながりを持って画面にバランス良く配置されていく。これは,例えば平安時代の「源氏物語絵巻」のように一画面の長さが定められていた為にかえって揺るぎなく緊密に練り上げられていった「つくり物語」の絵巻における画面とは異なり,長さに規制されずに画面を展開していくことのできたこの類の絵巻物ならではの画面構成法と言えよう。鑑賞者は画面を大観し,その枠の中に,いかにも自然な感じにバランス良く配置され描き込まれた風景を,そしてそこで営まれる人々の生活や一遍の遊行の様子をつぶさに味わうのである。(2) 風景表現について①実地調査の状況…鹿児島の大隅正八幡宮を除いて調査は順調に進み,2 〜 3月の本年度最後の長期休暇には瀬戸内海沿岸を巡り,踏査を終了する予定であった。岡山県の中山神社,広島県の吉備津神社と厳島神社,愛媛県の岩屋寺と大山祗神社は無事調査を済ませたのであるが,淡路島の大和国魂神社と志筑天神,一遍入滅の地である神戸市兵庫区の真光寺の三箇所は平成7年1月17日の阪神大震災の被災地である為に未調査のままで終わらざるを得なかったのは遺憾に絶えない。これらの地域に関しては復興し次第訪れたいと考えている。また本研究の対象である「一遍聖絵」の作品調査に関しては,従来既に半数以上を過眼しているものの,全巻の通覧調査は本年度内に実施することができなかった。しかし今秋には山梨県立美術館で「一遍聖絵」の全巻展示が行われる予定であり,この際に全体の比較調査を改めて行いたいと思っている。特にこの風景表現の研究については今後も引き続き調査研究を行い,完了した時点で改めて報告書を提出させていただきたいと考えている。②現地調査の所見…先ず現地における関係史料の調査については,室町以前に遡らせうる古絵図や絵画資料は大山祗神社などいくつかの社寺を除いてほとんど残存しておらず,逆にこの「一遍聖絵」の図を使って鎌倉時代の姿を説明する社寺が多かった。また現存する建築は江戸時代初期の再建になるものが多く,例えば平安時代の遺構がそのままに残っている当麻寺曼茶羅堂を除いては,建築の姿と画面との正確な比較は実地調査では明らかにすることは困難であった。しかもこの当麻寺曼茶羅堂について-238-

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