c歴史画〕第7回展に藤島武二《天平時代の面影》が出品されて以後,第8回展には青木繁《与茂都比良坂》,第9回展に岡田三郎助《元禄の面影》,和田英作《あるかなきかのとげ》など,白馬会の画家も歴史主題の絵画化を試みる。しかし,白馬会の歴史画は史実の忠実な再現を意図したものでも訓戒的な意味内容をもったものでもなく,歴史憧憬をおもな制作要因としているところに新しさがあった。〔ナチュールモルト,静物画〕の出品目録に散見されるが,以後は「静物」という訳語の画題として定着し,出品数を増してゆく。むすび以上みてきたように,社会のなかにおける「美術」としての洋画の位置づけや,絵画における今日的な画題やジャンルの枠組みの形成に,白馬会の活動が深く関わっていることが次第に明らかとなってきた。より詳細な検証を今後の課題としたい。(注)(1) 隈元謙次郎『近代日本美術の研究』,東京国立文化財研究所,昭和39年6月に収載(2) 東京国立文化財研究所美術部編『明治期美術展覧会出品目録』,中央公論美術出版,平成6年6月(附記)本稿執筆後,田中淳氏の編著による『日本の美術N0.351黒田清輝と白馬会』,至文堂,平成7年8月が刊行された。注(1)の隅元謙次郎氏の論考以後の研究の成果が豊富にもりこまれており,今後の白馬会研究の基本文献の一つとなるものであることを附記しておく。第2回展の出品目録に初出の「ナチュールモルト」という画題は以後第6回展まで(3) 松本誠一「風景画の成立一日本近代洋画の場合ー」『美学』178号,平成6年9月-261-
元のページ ../index.html#271