1 1945-1950年均⑮ 日本におけるアメリカ美術の受容1945-1965 研究者:広島市現代美術館学芸員出原はじめに戦前の日本の近代美術は,いうまでもなく,フランス美術の圧倒的な影響下にあった。日本洋画史は,ほとんどフランス近代美術の様々な流派の受容史だといっても過言ではないだろう。しかし,戦後は,アメリカ美術が台頭するにともない,日本においても,その影響力が強まり,やがてはフランス美術をも凌ぐことになる。その過程で,美術界に反発や転向,共鳴等,価値観の転換,あるいは,世代交代や美術の基盤の変化等,様々な動きがあり,そこには,たんなる影響史では片付けられない問題も含まれていると思われる。すでに半世紀を過ぎようとしている日本の現代美術の歴史を構築する上で,多角的な考察が不可欠だが,この研究もそのひとつとして行われるものである。この過程を資料によって跡付け,その時代を区分することが,今回,意図したところである。時代は,その動きが明瞭に見られる1945年から1965年の20年間に絞ることとした。この20年間は,その変化,動きによって,ほぼ5年毎,4つの時期に分けることができる。この時期,占領国アメリカに関する知識を吸収することは急務であり,美術の領域においても,その歴史や現状の概説,展覧会の紹介が美術雑誌等に掲載された。とくに現状や展覧会についての情報源は,アメリカの一般的な雑誌から,徐々に『アート・ニューズ』等の専門雑誌にまで深化していった。戦前,あまり紹介されなかったアメリカ美術にとって,これは大きな変化であるが,それゆえにこそ,いまだ一般的,啓蒙的なものが大半であり,当時の美術雑誌におけるフランス近代美術の圧倒的な情報や記事とは比較にならなかった。日本の一部の作家は,占領軍のために展覧会を開催し(アニー・パイル図書室等),アメリカに作品を送り,関係者に作品を売るなど,交流を深めていった。一方,アメリカ側もニューヨーク近代美術館々長や批評家,研究者が来日し(進駐軍の要請もあった),彼らのコメントも一部雑誌に掲載された。また,美術雑誌の検閲も行われたが,-267-
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