鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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ナの聖堂にもアバクスの部分に,様式化された連続する芽のようなモティーフや蔓植物,植物の芽の形から発展したような巻き毛を持つ人物の頭部の連続模様などがある。鷲に関しては,四福音書記者のシンボルがロメーナの右第四円柱の柱頭にあるためスティアのこの鷲を聖ヨハネのシンボルと取る解釈もある(注7)。確かに動物をライオンと取れば天使の像もあるため足りないのは雄牛だけで,これが破壊されてしまったファサード内側に付いていた持送りに描かれていたと考えることも不可能ではない。しかしこの動物は二度現れしかも福音書を表す本もそこにはなく,聖マルコのシンボルであるライオンとは考えにくい。右第四円柱柱頭の人魚は上述のように,数多い人魚の表現の中でも珍しいものになっている。水や鱗の表し方にも素朴ながら石エの独創性が現れている。人魚は主に中世後期には鏡を持って美しい長い髪をくしけずる姿で表されることもあり,「淫蕩」のアレゴリーの女性像にも転用されるようになるが,ロマネスク期の人魚は二叉の尾を両手で持ったり,二つの房に分けた髪の毛を引っ張る姿で描かれることが多い。ここでは人魚は両手を頭にやって髪の毛に触れている。現在もこの柱頭の近くには洗礼盤が置かれており,この人魚は洗礼によって退けられる悪を表していると考えるのが一般的である。しかしカゼンティーノ全体が水の多い場所でスティアは特にアルノとスタッジャの合流地に位置するということから,洗礼の水を表すとともに自然界の水の存在を暗示するためのものであったとも考えられないだろうか。右第五柱頭には支えるポーズを取る剃髪を施した聖職者と司教が描かれる。ロメーナの方では天使の像よりも大きく描かれるこの支える人物像は,上は丸襟のぴったりしたシャツのようなもの,下には胴体を紐でゆわえたプリーツのある長いスカートのようなものを身に付けている。この服装は12世紀に男性の服装として一般的でもあったようだが,ロンバルディアやエミリア・ロマーニャ地方の聖堂の装飾でも司祭などの姿はこの服装で表されており,ここでも教区司祭と考えてよいだろう。ロメーナでは天使がいる場所にこちらは司教の姿があるのは,スティアの聖堂と司教の間の何か特別な関係を暗示するものかもしれないが,いずれにせよ司祭が重荷を支える行為を通して救済を求めていることを表していると思われ,彫刻プログラムの考案者が司祭であったことを推測させる。右第六柱頭に描かれている古代ローマ風の衣装を纏う人物のポーズは古代彫刻を模したものかもしれないか,単に石エがたまたま目にした古代彫刻の模倣をしただけの-343-

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