⑮ タイ陶磁の分類と編年のための古窯址調査1)サンカンペン地域(チェンマイ県)研究者:福岡市美術館学芸員尾崎直人はじめにインドシナ半島の陶磁研究は,近年になって次第に活性化の様相をみせてきている。従来の研究では主に伝存作品の造形的特徴からの分類や編年に重きが置かれていたが,現地での考古学的調査が進展するにつれ,次第に出土する陶磁資料や窯などの遺構との実証的比較研究に重点が移ってきている。最近,開催されたこの方面の展覧会でも,陶片の展示をあわせて行ったり,発掘報告の成果を積極的にとりいれたものが少なくない。このような状況のなかで,筆者の奉職する福岡市美術館には,最近まとまったインドシナ半島の陶磁のコレクションが寄託され,現実的問題としてそれらの制作地による分類や相互の関連性・編年などの実証的調査研究が急務となっていた。幸いにも今回,鹿島美術財団からの研究助成をいただくことができ,この方面への現地調査が可能となって,平成6年12月2日から平成7年3月30日までの期間,タイを中心とする古窯址の現地調査を行ってきた。調査できた古窯址は18地域50数ヶ所にのぼり,採集できた各窯の陶片資料も合計250キロ以上に達し,現在までの所在の判明しているタイの主要な窯はほぼ網羅的に見てくることができた。(添付の調査古窯址リスト参照)また日本では入手困難な原語での報告書や文献なども少なからず収集し,現地での研究の進展の様相もほぼ把握できるようになったと思っている。本来ならばそれらの資料をもとに,確定的な研究成果を提示したいところであるが,帰国後,まもなく報告書を書いているため残念ながらここでは十分な結果を出し得ないことをはじめにお断りしたい。以下,今回の調査で収集した陶片等の資料の観察と分析をもとに事実関係の報告を中心におこないながら,今後継続的に考証したいと考えている幾つかの問題点を付記することにする。く北方タイ(ランナータイ)の諸窯〉この窯の製品は,北方タイ陶磁のなかでも焼成技法や形態などの面から,最も初期的な特徴をそなえるものとして従来から特に注目されている。窯址はチェンマイの東-369-
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