鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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期(15世紀中頃)の景徳鎮の絵付けを写したと思われる碗の陶片を得,またサンマケ10キロほどのサンカンペン東郊に散在する。これまでに報告されているこの地域の窯2)カロン地域(チェンライ県)はおおむね5地域であるが,住居地域に取り込まれて破壊されたり,灌漑池の建設のために水没したりで,実際に調査できたのはジャンパ・ボーン窯とワット・チェンセーン窯の2地点であった。鉢や甕.壷などを中心に焼いてるが,底が平らな鉢は無釉の口部と口部,底と底を合わせて焼成するというあまり例のない技法で焼かれており,薄く特徴的な形状とともにシーサッチャナライで作られたサンガーロークの初期の製品(モン式陶器)との類似関係が推測されるという点でも興味深い。サンカンペンの位置付けに際しては,タイの中部のサンガローク製品が焼き始められる以前の焼き物であるクメール・ラオスなどの陶器との具体的な関連性が今後あきらかにされる必要があるだろう。カロンの製品は,かなり広範囲にわたる地域で焼かれている。特徴のある釉下鉄彩の文様で知られるカロンであるが,白磁や緑釉などタイの他の地域では全く作っていない種類の焼き物を焼いている点でも注目され,また中国磁州窯との関係を想起させる個性的な鉄絵文様は早くから注目をあつめ,北方タイ諸窯のなかでもカロンは特に重要な窯である。今回の調査では7地域20余ヶ所の古窯址を見ることができた。中心となる窯址は,メカチャン町の東部の丘陵地帯を複雑に縫って流れる小川に沿って点在するが,西北部のビエンパパオ窯や丘陵西部の麓に沿ったトゥンマン窯・バーサン窯・サンマケット窯,サンクー窯,東部のトゥンホア窯・メーパオ窯,南部のワンヌア窯(ワンポン窯)など地理的に相当広い範囲にまたがっていて,作られている製品にもかなりのはばが認められる。一般的にカロン窯として知られる製品は,薄手で光沢にとんだ独特の鉄絵文様をもつ鉢類によって代表されるが,今回の調査では同じ窯で作風の異なる厚手の種類の製品を作っていたり,またタイでは珍しく匝鉢を使用して焼いていたりという発見が,現地の窯を実際に見ることにより確かめられたのは大きな収穫であった。制作時期を推測する資料としては,トゥンマン窯で中国明時代中ット窯では中国明時代初期と思われる青花の断片を収集したりして,カロン窯の活動時期に関する若干の手掛かりを得たことも報告しておきたい。陶磁研究において伝世品の制作地の特定には,現地の窯からの出土遺物との比較検討は必要不可欠である。筆者が見た伝世品の中のかなりの作品が制作地を予想できる-370-

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