鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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3)パヤオ地域(パヤオ県)4)パーン地域(チェンライ県)ようになったと考えている。さらに陶片資料の収集では,製品のみならず窯道具類にも特に注意をはらった。というのは匝鉢など窯道具についての他の地方の窯との比較検討は,北方タイ陶磁の起源や技術の伝播などを考証するうえで有力な根拠のひとつとなりうると考えるからである。基準作がほとんど現存しないタイ陶磁史の編年の作業には大変大きな困難をともなっており,その事情は北方タイ陶磁でも同じで製作年代の明確な資料がまった<ないため,今のところその研究には他の地域の窯との地道な比較研究以外に方法がないというのが実情である。パヤオ市の南方に点在する窯は,ごく最近に発見されたもので,すでに宅地化がすすんで窯址は完全に破壊されていることもあり,タイ美術局の正式の調査はまだおこなわれていないようである。窯址があったと思われる寺院敷地内で多数の陶片を採集した。鉢類を多く焼いており,特に注目されるのは,その形状と施釉法および焼成法である。無釉にした口部と口部を合わせて焼くやり方や器形など,北方タイ陶磁でも初期のものと言われるサンカンペンときわめて類似する特徴をそなえている。またパヤオ市内のワット・リーという寺院には多数のパヤオ出土の陶片が保存されており,その中には鉄絵や押し型で双魚文様を表したものもあり,ますます両者の類似関係を強く印象づけた。その他,ワット・リーにはパヤオ窯の製品としてかなり上手の青磁を少なからず所蔵しており,もし実際にパヤオ窯のものであれば中部タイのシーサッチャナライ窯との関係も含め興味深い問題を提起する可能性があり,この地域の今後の考古学的調査が進展することが切に望まれる。パーン窯はタイ陶磁のなかではサンガロークとともに特徴のある美しい青磁を焼いた窯として知られ,細い刻線によって表わされる刻花文様は,パーン独特の表情をもち,北方タイ陶磁のなかでも独自の位置を占めている。輸出用の製品ではないという定説を破って,近年フィリピンやインドネシアでパーンのものが小量発見されており,また従来この地方以外の国内で殆ど出土していないという状況を覆して,10年程前タイ・ミャンマー国境のオンコイ地区からは上手のパーン製品がまとまって発見され注目をあびている。今回は2地点5ケ所の古窯址を調査し,窯址から数多くの陶片類を得た。若干の褐-371-

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