中央祭室正面には封印のかけられた本の置かれた玉座の両側に『黙示録』の24長老が,手にシタールを持ち,王冠を投げ出して拝する[図2]。この祭室の円筒型の天井には,「栄光のキリスト」と四聖獣が描かれる。向かって右手壁には,『黙示録』の4騎手[図3]が熾天使,ヨハネと見られる人物とともに,反対側の壁には,「祭壇の下の死者の魂J,「香炉を振りながら祭壇へ向かう大天使」が表され,それぞれの壁面の凱旋アーチ寄りは,一群の「選民」で占められている。凱旋アーチの内側には,「カインとアベルの供犠」[図4],「アベルの死」が確認される。凱旋アーチには,「アブラハムの供犠」の他,パトロンである聖キリアコスとその母,聖ユリッタの殉教場面が表されている。身廊壁面は,上部の半身の使徒列が残るのみである。南祭室には,円胴部に「賢き乙女と愚かな乙女」が室内と屋外に描き分けられ,建物の内側には,婚礼の宴のテーブルにつく5人の乙女とキリストの姿が認められる。外に立つ愚かな乙女に続き教会堂を玉座として腰掛ける「エクレシア」が描かれる。南小祭室天井には,聖母子が表されているが,そのほか,アーチ部に「受胎告知」のテーマの表現がかつてあったという説もある(注6)。また,アーチの内輪には,福音書記と見られる石板とペンを手にした人物が描かれている(注7)。北側祭室の壁画のテーマは定かではないが,並んで掛ける使徒のうち,中央の人物のみ玉座に座すことが確認されている(注8)。2.図像F.ムンスは,周辺の同規模の教会がすべて文献に現れているのに反し,当該教会が歴史的に沈黙を守る理由を,女子修道院(ベネディクト派)であったためと考え(注9),右祭室の壁画のテーマに「賢き乙女,愚かな乙女」が選択されたことと関連づける仮説を立てた(注10)。また,J.ピジョアンは,右祭室の壁画に言及し,「愚かな乙女」と「賢き乙女」の服飾の差異を指摘すると共に,右側壁の「教会の上に腰掛けるェクレシア」が,婚礼の宴から疎外された「愚かな乙女」に悔悛による救いを促す役目を負うという興味深い見解を示した(注11)。また,W.ノイスは,「10人の乙女」が,『リポーィ聖書』にも半身でテーブルの向こうにいるように表されていると述べている(注12)。D.ミラーは,『エクスルテット画巻』に「教会堂の上に腰掛けるエクレシア」が表されていることを指摘し,また,「10人の乙女」と併置されている理由をモサラベの一典礼文に求めた(注13)。-391-
元のページ ../index.html#401