や15憔紀後期のスイスパネル[図3]など,克明に描写している。それらが判読できるように撮影するには写真家の方と非常に苦労した。その甲斐もあって,撮りあがった写真は,紙の色および水彩の色,薄い鉛筆の書き込みまでほぼ明確になり,整理分析のために充分な質を保っていると思われる。そしてこれにより,一次資料であるスケッチが痛む危険がなくなった。それでは,具体的にスケッチの内容を見ていきたいと思う。まず,スケッチに描かれているヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の作品は,地域別に分けると,ョーロッパ,ペルシア,エジプト,インド,中南米,中国,日本など広く世界に渡っている。ヨーロッパのものは数多いが,とくに整理していて感じたのは,ペルシア,インドのものが中でも克明に描かれ彩色まで施してあるのが目立ったことである。対象作品別に分類すると,建築・室内装飾,家具,壺や皿などの陶器,壁画,彫刻,絵画染織などに分けられる。先にも述べたが,イギリス留学の理由の1つに,西洋建築の見聞があり,ヨーロッパに関するスケッチは建築物の壁や扉,窓の構造やデザイン,さらに家具や壁,扉,窓に施されている装飾まで丹念に,説明を加えながらスケッチしている。また,扉に用いる鍵に非常に興味を持っていたようで,様々な形の鍵がスケッチされている。これらを見ていると,富本がいかに装飾に興味を持っていたかが明らかになってくる。それでは実際にスケッチからいくつか例をとって概観してみる。たとえば,扉のスケッチでは,鉛筆を用いてまず扉全体を描き,全体の寸法を記し,そして,その扉を区分して寸法を記している。さらに扉の部分を拡大して描き,細か<寸法を記している[図1]。その外,15世紀ドイツのオーク材のカップボード[図2]もう一つ,椅子の例をみてみると,椅子も鉛筆を用いて丹念に描かれており,椅子背部両端の装飾は拡大され描かれている。そして,注書きとして右端に縦書きで「皮張椅子,皮に一面の皮細工あり]と記してある。この椅子のスケッチなどは写真よりも椅子の特徴をつかんでいるといえよう[図4]。工芸作品の壺を例にだすと,ペルシアの壺においては,始め鉛筆でスケッチし,その後褐色の水彩絵具で輪郭がとられ,胴の部分に青色が施されているものを描いているか,その壺にも建築のスケッチ同様に,細部の色が記され,高さ10X 1/8インチ,直径4X5/8インチと書かれている[図5]。また,インドのものと思われる皿では,茶-400-
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