宣伝で鎖国の状態にたちいたったこととは,人の知るところであろう。しかも敗戦後の今日,あらためて世界的な立場に立って現代工芸を見るとき,未だにこの鎖国状態より一歩も出ていない。まことに暗淮たる思いがする。また各種別の工芸製品につき,わが国人がこれこそ日本が他国より優位にありなど考えるなら,その考えは戦争中の軍事のそれと近時点多く,非常に危険を感じ,悲観せぎるを得ない材料にも満ちている。」(工芸感想片片,吉田書房,昭和21年)今回,富本の留学時代の300余枚のスケッチを調査したが,そこには青年時代の富本の夢や理想が目に如実に現れていた。また,帰国後から晩年までに書かれた種々の文章をあらためて検討してみると,富本が青年時代から,晩年大成するまで,一貫した工芸思想を持っていたことが解った。今後は,今回調査したスケッチを,実際にヴィクトリア・アンド・アルバート美術館所蔵の作品と照らし合わせ,その結果とともに,写真撮影をしたスケッチを画像および文字データベース化し,様々なファクターから分析を試みたいと思う。これによって,富本の工芸思想の形成過程だけでなく,大和時代,東京時代,京都時代と作風が展開していった過程や,作品に描かれている模様やそのデザインをさらに詳細に多角的に研究できるものと考えられる。-404-
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