甲をみると,三像とも下甲・表甲•前楯を装着するが,肩に執金剛神は肩甲をあて,まず頭部は,三像とも髪は椋き分け束ねられ,その束の境は深くくぼみ明瞭に分けられている。さらにこれらを頭頂で一つに束ねて髯を結い上げている。執金剛神と戒壇堂増長天(以下戒壇堂像)は髪の一つひとつの束は深く明確に区別されているが,法華堂増長天(以下法華堂像)は束ねられた髪の分け目は浅く,形式的で,さらに毛筋目をあらわしている。しかもこの表現は伝H光・月光菩薩像の頭部の表現にきわめて近い。執金剛神と戒壇堂像は毛筋目をあらわさないことろからすると,法華堂像とは区別されるべきもので,より進んだ表現をしている(図4• 5 • 6)。眉は,執金剛神と戒壇堂像の眉は著しく隆起し,急角度で曲がり筋肉の力強いさまがうかがわれる。これに比して法華堂像は眉の筋肉の凹凸やその角度は緩やかである。また執金剛神と戒壇堂像の眼のかたちは明瞭につくられている。一方法華堂像も瞑目のさまをあらわすが前二像に比べるとつくりは浅く不明瞭なかたちといえる。さらに口は,執金剛神と戒壇堂像とは歯をむき出して大きく開くが,法華堂像はわずかに開く程度で力強さに欠ける。また頬骨の盛り上がりは執金剛神と戒壇堂像は著しく,法華堂像はわずかに盛り上げている程度である。執金剛神と戒壇堂像の咬筋は怒張し,周囲の筋肉も著しく盛り上げることによって,激しい盆怒の表情を誇張ぎみにあらわす。願から下顎と頬骨にかけての骨格はあくまで太く,がっしりとして,この部分の表現は特にきわめて似通っている。頸は三像いずれも短いが,執金剛神が血管や筋を浮き出させ,さらに甲の端から鎖骨をのぞかせて細部にわたって写実的である。戒壇堂像と法華堂像は持国天以外頸甲で覆うが,血管や筋を出すことなく,なにも表現しない。つぎに体幹部であるか,執金剛神は上体をやや前傾している。右腕は,肩をぐっと引いて手に大振りの金剛杵を握り肩上に振り上げる。左腕は,肩を少し下げぎみにして垂下させ,拳を強く握りしめる。その拳から上腕にかけては盛り上がった筋肉と浮き出た血管が生き生きと表現されている。戒壇堂像は執金剛神とは少しちがい,背筋を伸ばし,両腕は衣に覆われ,腕の動きにも力強さは抑えられている。執金剛神がいまにも襲いかからんとする一瞬をとらえているのに比べると戒壇堂像は動きをとめたような状態になっている。一方法華堂像は前二像が体勢に変化をだしているのに対して単調である。戒壇堂像と法華堂像は獅噛をあらわす。甲は三像とも胸〜腹部の表甲を紐で結び固め-433-
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