⑪ 国内所蔵パウル・クレー作品の調査品1200点のうちの約4パーセントが所蔵されていることになる(注3)。1. クレーの作品研究者:慶應義塾大学文学部教授前田富士男画家パウル・クレー(1879-1940)の全作品は9800点をこえるが,ベルンのクレー財団とクレ一家とが所蔵する作品は約2750点と約1250点に,すなわち合計約4000点にのぼり,クレー作品の4割がベルンに存在している。ベルン美術館(クレー財団)以外の世界の公的(公私立)美術館に所蔵されるクレーの作品は,1200点をこえ,そのうち油彩系着色画は約220点,多彩色画は約650点,素描画は約350点を数える(注1)。我が国に現在所蔵されているクレーの作品は,筆者の推定では200点以上の総数にのぼると思われるが,そのうちの約4分の1が国公立・私立の美術館に収蔵されており,公開もしくはそれに準じる状態にある。その現在の概要(版画を除く)はほぼ以下の通りである。宮城県美術館(仙台)16点,東京国立近代美術館(東京)3点,セゾン現代美術館(軽井沢)3点,小川美術館(東京)3点,大原美術館(倉敷)3点,愛知県美術館(名古屋)2点,笠間日動美術館(笠間)2点,メナード美術館(小牧)2点,神奈川県立近代美術館(鎌倉)1点,横浜美術館(横浜)1点,新潟市美術館(新潟)1点,富山県立近代美術館(富山)1点,広島県立美術館(広島)1点,ブリヂストン美術館(東京)1点,何必館・京都現代美術館(京都)1点などである(注2)。したがって日本の美術館には,ベルン美術館以外の世界の美術館が持つクレー作日本の諸美術館のなかで宮城県美術館は,所蔵作品の量的な規模でも,またその品質的な見地からも,我が国におけるもっともすぐれたクレー作品コレクションを形成しており,同時に世界的にみても美術館・公立機関として正当に評価しうる水準に達しているといえよう(注4)。宮城県美術館のコレクション作品において,《アフロディテの解剖学》のように作品の切断・再接合という制作手法の点で興味ぶかいものも存在するが,クレーの造形思考にてらしてみると,1916年のほぼ同時期に制作された2点の着色画がもつ意義は,看過しがたい。われわれはこの作品を「文字絵」作品と連続する作品群として解釈を試みたい。-441-
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