2. 1916年初頭の作品群1916年は,周知のようにクレーにとって「運命の年」(『日記』965番)であった。第118にはクレー自身が召集された。クレーの記入した綿密な『作品目録』の順序が必7.《金色の縁のあるミニアチュールMiniature in Gold gefasst》水彩8.《眼のコンポジション,ミニアチュール的Augenkomposition, miniatlirartig》9.《リンツィブリRinzibri》水彩10.《無題,紫と黄の運命の響きと二つの00の球Violett-gelberSchicksalsklang mit den beiden 00 Kugeln》水彩13.《無題,下に太陽,ミニアチュール的Mit der Sonne unten, Miniatlirartig》文字絵(Schriftbilder,Buchstabenbilder)という題材と主題がクレーの作品にしめる重要性は,あらためて強調するまでもない。文字とフォルムの結合は,すでに初期のエッチング連作《インヴェンション》(1903■05)におけるエンブレーム的用法に認められるが,フォルムや色彩と文字,記号と文字の特異な統合は,1914年の《記憶の絨緞》(1914/193)などにまず萌芽的に現れる。翌年の作品にも同様な関心か指摘できるとはいえ,文字とフォルムの結合は,1916年の一連の中国の詩を題材にした文字絵において初めて明確に提示された。この文字絵では,文字とフォルム,記号と線描,文字と色彩,あるいは楽譜の記譜にも類似する横長の展開から,文字のリズムや旋律,といった複合的な造形関心が明示されている[図2]。すなわち,文字絵とはきわめてクレー的な問題意識の結節点ともいえるだろう。そしてこの文字絵の成立において「ミニアチュール」という概念が重要な役割を果たしていることを見過ごしてはならない。一次世界大戦はその傷をひろげつつあり,3月4日にマルク戦死の報がもたらされ,ずしもそのまま制作順序に対応する訳でないことはいうまでもないし,とりわけこの「運命の年」の目録の記入については慎重に考えるべきであろう。しかしこの1916年の記入は示唆ふかい。『作品目録』における1916年は,以下のように記されている(作品番号30以下は省略)。番号1より3は無題のペン素描。4■ 6は石膏製の小人形である(4,5はクレー家蔵,6は所在不明)。水彩11.《無題,小舞台景KleinesBtihnenbild》水彩水彩-443-
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