鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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エルサレム》(1914/161),《吹き出されて》(1915/23)ほか)など,文学・言語芸術の「挿絵Illustration」という志向が一貰してこの画家に認められることはあらためて指摘するまでもない。1913年春にマルクは,カンディンスキー,クレー,ヘッケル,ココシュカ,クビーンに聖書挿絵の制作を呼びかけ,「青騎士」からの刊行を計画した。世界大戦の勃発によって計画は中断したが,クレーは「詩篇」を担当することになっていた。1915年には《詩人一素描家》(1915/195)と題する素描が制作されているが,画家の資質に加え,上記の聖書挿絵の計画もあって「文字と絵」への志向は強かったといわざるをえない。は画面中央に眼を見開いた威嚇的な仕草の人物をおき,その下方には足のついた7つの星形がみえる。周辺には,波のようなフォルムと逃げ出す人物が認められるから,われわれはたとえばデューラーの《黙示録》木版画の《七つの燭台の幻想》(1498頃)や《七つのらっぱ》(1496頃)を思わずにはいられない。大戦という危機的状況がクレ―ーを聖書の物語に向かわせているのも事実であろう。《金色の縁のあるミニアチュール》(1916/7)は,水を想わせる青い地のうえに動物や魚,眼などのたくさんのフォルムをおき,左上には男性のような,右下には女性のような姿がみえる。これは,1916/2や1916/3の素描が水面のような地の上にフォルムを展開する仕方と共通である。1916/7では,これらの素描がもつ危機的な衝迫感かカをひそめており,一種ののびやかな気配も流れている。《金色の縁のあるミニアチュー1916年の最初の素描にもこの志向が作用していることは疑いえない。1916/2の素描図3クレー1916/27 -445-

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