ル》は「創世記」の天地創造の出来事ともとりうるが,「眼」のモティーフはむしろ「詩篇」を思わせる。「神の眼」は「創世記」には現れないが,「詩篇」には頻出するからである。《金色の縁のあるミニアチュール》の金色の縁も,神の賛歌にふさわしい。目録上の次の作品1916/8は《眼のコンポジション,ミニアチュール》と題されている。また1916/9の題名《リンツィブリ》の正確な意味は不明だが,牛Rindの姿が描かれていることから,牛をささげる幡祭と解しても間違いではないだろう。たとえば「詩篇の作品に見出すことはおよそ難しくないし,また不当でもあるまい。1916/10の《運命の響き》の「二つの球」は神による天地創造を意味すると理解してよい。クレーの造形を聖書の特定の意味付与に対応させるのは無意味だが,1916年のこれらの作品に詩篇的文脈が作用していることは認めざるをえない。「ミニアチュール」という語を題名にもつクレーの作品は11点だが,そのほとんどがここに集中している事実は,まさにクレーが文字テクストの挿絵という制作を意識していたことを端的に告げている。いるが,人間や動物,生物ではなく,太陽や花,風景が題材の中心となる[図1]。とはいえ,「世界」という語が用いられるように,やはり創造の出米事や神の力ヘの讃め歌が主題となっている(ちなみに1916/13,/14,/17,/18の4点は当初の1点を切断した作品)。クレーの「文字絵」の最初の作品というべき王僧儒の詩の作品,1916/20は,以上の制作の延長に位置する。これはいわば「ミニアチュール」や「挿絵」の作品群を発展させたヴァージョンと理解してよい。クレーは,文字テクストの挿絵という志向を延長させながらも,ここでは文字そのものをそのまま造形次元に転移させている。1916年初頭においてクレーはいわば,文字とフォルムの関連・統合,つまり「シンタグマ(連辞)」を追究する作品群を生みだしたといえよう。クレーは1916年に妻リリーから中国の詩集をプレゼントされた。ハンス・ハイルマンが編集し,かれ自身が仏訳英訳から重訳したアンソロジーである。上記したように,そのなかから2人の詩人の作品をとりあげ,かれの最初の「文字絵Buchstabenbilder」として6点の水彩作品連作が成立した。評価の厳格な読者クレーにしては珍しい積極第66篇」における海,神の眼,牛と羊の播祭といったモティーフを1916/7から1916/91916/13から1916/19まではやはり「ミニアチュール」という語が題名に与えられて3.空間的パラダイムとしての「東西」-446-
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