反映する。文献資料により,豚しい量の大型の作品が産み出されたことが分かるが,残念ながらほとんど失われている。また,現存品の多くは断片である。技法上の特色としては,それ迄の,人物像の顔面や四肢等を施釉せずに金属面のまま残す方法に代わり,頬,額,頗,鼻にふくらみを持たせ,眼窯や口元を凹ませる非常に浅い浮き彫りに線刻で目,鼻梁,唇や毛髪を描き起こした上に,無色透明に近い乳白色あるいは淡紅色の釉をかけるのが定着したことがまず挙げられる。金属面は隈無く七宝釉で覆われ,浮き彫りの凹凸は一層繊細になり,全体に女性的な優しげな作風となっている。これは,人物像などの背景に描かれる装飾文か,14祉紀前半に主流であった光を乱反射させる効果の高いクロスハッチングから唐草様の植物文に移行を見せていること,七宝釉の彩色が豊富になり中間色が好んで用いられているところにも表れている。金や銀は銅に比べてはるかに柔らかく,彫金加工の容易な素材である。また大変高価でもあり,透明釉七宝に用いられている金属板は銅板に比べて薄い。打ち出し法による浅浮彫りは,然し乍ら,裏面にまでひびいていることは稀で,裏側から加工を施したとは考えにくい。駆を用いて表側より行うのが普通であったようである。金属板の厚さは型押しや裏からの打ち出しが難しい位で,表から浮き彫りを施し七宝をかけても大丈夫な位の反ったり歪んだりしない程度のものであったと判断して差し支えなかろう。数例に,隣り合った色の七宝釉がにじみを呈していることから,七宝の焼成は一回ないし極く少ない回数で行われたと考えられる(注5)。七宝釉の色数は作品によって異なるが,少なくとも四色程度,十色前後が用いられている作品も少なくない。色彩の傾向としては,金地を用いた場合は真紅,濃青色,緑色,黒色,白色,紫色,濃褐色等のコントラストのはっきりした色が好まれ,銀地の場合は,濃淡の青色,緑色,淡黄色,淡紅色,淡紫色等の寒色系の色彩の傾向が認められる。逆に,イタリアの透明釉七宝で多用されるオレンジ色,オリーヴ色,濃紺色,イギリスやフランドルの作品に多い灰色は用いられることが少ないようである。こうした地域別の色彩傾向があるのは確かであるが,調査作例はまだ十分とは言えず,今後更に作品を検討する必要かある。(2) 作品記述-453-
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