a)アレクサンドリアの聖カテリナ以下に,調査作品の記述を掲げる。作品の技法,様式,図像について検討し,類似作例にも言及する。作品の来歴については注を付した。残念ながら,当該地域の七宝作品には,製造者と組合の認可の刻印,作者による署名,記銘は認められなかった。従って,記銘入りの基準作が発見されないかぎり,上記三点の比較による作品の分類,分析が研究の要となる。紙面の都合もあり,全ての作品を均等に扱うことは困難である。そこで,本論では,護符または装身具も兼ねた小祭壇画を中心に紹介し,他の作品については,別表にまとめるにとどめた。後者については,別の機会に改めて紹介できれば幸いである。これらの小祭壇画やペンダントは,平信者の日常生活の道具であった。化粧道具や食器類にも聖書に取材した主題や聖人像が描かれることは少なくなく,富裕層の信仰生活や習慣の一端を示す道具類である。小祭壇画やペンダントは,同時代の遺言書,財産目録等の文献資料においては装身具類とは別の,聖人の小像などと同一のカテゴリーを構成している。然し,これらがどう用いられていたのか具体的に知るのは容易ではない。以下に翼画の無い,額縁に入った聖人像の絵を型取った聖遺物容器について記述する。ロンドン,ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館所蔵(注6)この聖遺物容器は,持物の車輪の破片と椋欄の葉を持ち,玉座に坐した聖カテリナを七宝を用いて描いたパネルに,裏に聖遺物が収容できるよう厚みを持たせた額縁を付けた物である[図l]。図I聖カテリナの聖遺物容器,ロンドン,ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館,寸法:高さ6.7幅5.3cm左)裏側右)表側-454-
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