し‘゜b)額絵型聖遺物容器:聖ジュヌヴィエーヴ図2聖ジュヌヴィエーヴの聖遺物容器パリ,クリュニー美術館寸法:高さ6.4幅4.0cmるが,葉を切り落とした小枝は,シャルル六世の王弟オルレアン公ルイ(1372-1407)の表徴であったことが知られている。雛菊や金雀児は表徴としても好まれた植物文で,これらの植物文及び聖カテリナを結び付ける実在の人物が,当聖遺物容器の所有者であった可能性も考慮しなければならない。制作年代や注文者については依然,手掛かりは十分とはいえないが,以上に述べたことから,従来の説,1370年から1380年よりはやや遅い1380年から1400年頃と考えるほうが自然と思われる。パリ,クリュニー美術館所蔵(注10)この聖遺物容器は,若干の寸法の差を除き,上述の聖カテリナのそれとほぼ同じ構成,技法,七宝釉の色数を用い,所により黒色釉で太く隈取りした簡素なデッサンも共通する[図2]。従って両者は同一の作者により同時期に制作されたのは間違いがな当聖遺物容器の方が保存状態は良好である。額縁の奇IJ形の上の濃紅色の花は欠損がなく,裏面の聖遺物を収める部分を密閉する金属板の蓋も残されているからである。この蓋には,璧による点描で雛菊の茎を両足の爪で掴んで羽を半ば広げた鳥が一羽描かれている。また,額縁の考IJ形の雛菊の葉と茎も,ロンドンの聖カテリナの聖遺物容-456-
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