1390年代以降の制作と推定される。勿論,「聖母のいとも美しき時蒻書」の来歴を考慮すd)額絵型聖遺物容器:福音書記者ヨハネ似た植物文が点描で描かれている。顔貌の表現法,単純なデッサン,めりはりのきいた七宝釉の色彩,点描による背景の金雀児文は,当パネルを上記二作品,ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の聖カテリナ及びクリュニー美術館の聖ジュヌヴィエーヴの七宝と共通する。ただ,同様に額絵型の聖遺物容器の一部であったのか,別の形態の祭壇画等であったのかは不明である。但し,七宝釉の色は,所謂パリ産の七宝にしては暗い色調で,聖母のマントの濃青色や灰色は他に作例が余り知られていない。特に後者の色は,フランドル地方とイギリスの七宝工芸品で好まれる色である。従って,当作品をパリ産と結論付けるのには慎重でなくてはならないが,聖母子が,衣装の表現,姿勢色彩等において,14世紀末の写本,「聖母のいとも美しき時疇書」中,「ナルボンヌの祭壇前飾りの画家」工房で制作された挿し絵に良く似ることは注目してよかろう(注13)。これは,当作品が宮廷に極めて近い環境で制作されたことを示唆する。当写本の制作年代により,当七宝パネルは,ると,両作品の関連性の高さは七宝パネルがパリで制作されたことの根拠にはならない。図3七宝パネル:聖母子ロンドン,大英博物館寸法:縦4.2横2.8cm-458-
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