鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
469/588

パリ,ルーヴル美術館所蔵(注14)ばぼ方形の当作品は,裏側に聖遺物を収められる奥行きのある額縁に鎖が付き,壁等に掛けられるようになっている点で上記a,bで論じた作品に近い。そのため,聖遺物容器であったと考えられるが,今日,額縁に接済された七宝パネルの裏面や,額縁の裏側が露出し,聖遺物,聖遺物を収めるための仕切りや蓋などの構成物は残されていない。額縁の奇lj形の上に花を並べ,外側に張り出した針金製の枠を型抜きした葡萄葉モチーフが繋ぐ意匠は上述の聖遺物容器とも共通点が大きいが,ここでは,葡萄の葉が外枠と額縁を繋ぐだけでなく額縁上の花の茎を模した針金が両者を固定し,前二者の優美さには及んでいない。福音書記者ヨハネの立像を描いた七宝パネルは[図4],聖人の顔貌の描法や身体のプロボーション,衣摺などに聖カテリナや聖ジュヌヴィエーヴや聖母のそれとの類似が認められる。然し,種々の駆を使い分けた彫金は遥かに多様で,パネルの全面に用いられた七宝釉の色彩もより多彩である。背景をなす木立の表現や聖ヨハネの四肢などの稚拙さは,制作に当たった金工職人が必ずしも有能なデッサン家ではなかったことを物語るが,樹木の紡錘形の葉や幹は鋭利な堅で輪郭を取り,聖人の顔,手足,衣,地面に生える草には太さの異なる緊を使い分けている。草の三叉の穂は,目打ちのような道具で金属面を凹ませて表現されている。画面の上四分の一程を占める木立の,広げた傘の様な形をした樹木は,幹に同じ濃図4(パネル部分)福音書記者ヨハネの聖遺物容器パリ,ルーヴル美術館寸法(額含む)高さ8.2幅7.2cm(額含まず)高さ4.2幅3.6cm--459--

元のページ  ../index.html#469

このブックを見る